
ケニアの薬事毒物委員会(PPB、Pharmacy and Poisons Board)が、2026年に入り医療機器ソフトウェア(MDSW、Medical Device Software)に関する新たな規制指針を相次いで示しています。画像診断AIや臨床支援アプリのように、ソフトウェア自体を医療機器として扱う動きが本格化し、審議中のAI法案(AI Bill 2026)とも重なる二重規制の構図が浮かび上がってきました。本稿ではその内容と、日本のデジタルヘルス・医療機器関連企業が押さえるべき実務上の論点を整理します。
現地報道によると、PPBは2026年2月に医療機器ソフトウェアの規制指針を発表したと伝えられ、4月にはその内容を詳しく伝える報道が相次ぎました。対象は、CTスキャナーや心電計(ECG)モニターなど医療機器に組み込まれたソフトウェア(SiMD、Software in a Medical Device)と、MRIやCT画像を解析して乳がんなどの病変を検出するアプリのように、ソフトウェア単体で医療機器として機能するもの(SaMD、Software as a Medical Device)です。運動や睡眠、体重管理、栄養管理など一般的な健康管理アプリの大半は対象外とされています。指針は国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)のSaMDの枠組みに沿っているとされ、ケニアのデジタルヘルス法(2023年)やAI戦略(2025〜2030年)、データ保護法との整合性も求められています。
規制はリスクに応じて審査の厳しさを変える「リスクベース」の手法を採用しているとみられ、診断や治療に直結する高リスク製品ほど厳格な審査が求められます。申請者はPPBのオンラインポータルから登録し、設計文書、リスク評価、臨床的妥当性の検証結果、バージョン管理の記録、市販後監視計画などの提出が必要とされています。国際規格であるIEC 62304(医療機器ソフトウェアのライフサイクル管理)およびISO 14971(リスクマネジメント)への準拠も求められる見通しです。市販後も、実環境での性能評価や有害事象の報告、必要な場合の是正措置といった継続的な監視が課されます。AIを用いた継続学習型のソフトウェアについては、モデル変更の基準や異常検知、ロールバックの手順を事前に定めておくことが求められるとみられます。
PPBの指針と並行して、ケニア上院ではAI法案(AI Bill 2026)の審議が進んでいます。同法案は2026年4月2日に上院で第一読会を終えた段階で、まだ成立していません。法案はAI担当官(AI Commissioner)を置く新たな独立機関の設置を想定し、AIを用いる医療機器を「高リスクAI」として分類する内容です。導入前のリスク評価や人権影響評価、透明性の確保、5年間のデータ保存、性能指標の記録、AI担当官への年次コンプライアンス報告などが義務となる見通しで、違反時の罰則は最大500万ケニアシリング、または2年以下の禁錮が想定されています。PPBの基準を満たす事業者はAI法案の一般的要件も満たしやすい一方、その逆は必ずしも成り立たないと指摘されており、両規制の分類基準や報告の時期・形式は別々であるため、事業者は双方の要件を個別に確認する必要があります。
ケニアでは、PPBを含む複数の規制機能を一つの機関に統合する「Kenya Health Products and Technologies Regulatory Authority Bill」が上院に提出されています。議会の法案トラッカーによると、同法案は2024年12月4日に第一読会を終え、2026年8月10日時点の更新では第二読会の段階にあるとされています。可決や署名に至ったとの情報は確認できておらず、法案の名称が報道によって異なるなど情報が整理されていない部分もあるため、最終的な制度設計は今後の国会審議の行方を見る必要があります。
ケニアの医療機器ソフトウェア規制とAI法案は、いずれも審議・運用の初期段階にあり、詳細は今後確定していくとみられます。日本のデジタルヘルス・医療機器企業にとっては、進出の前から分類確認とデータ対応の準備を進めておくことが、現地での信頼構築につながるといえます。