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アフリカの 医療インフラを 変革する、 スタートアップ支援の役割と成功事例
公開日時:
2025/1/16 23:30

アフリカ諸国における医療インフラは、現在でも歴史的な課題や社会的・経済的制約によって未発達な部分が多く存在しています。その中で、スタートアップ支援はこれらの課題に対応し、医療インフラを変革するための重要な役割を果たしていくと考えられています。ここでは、アフリカ諸国内のスタートアップ支援と医療インフラの変革について、その現状、スタートアップ支援が必要な理由、成功事例、課題や今後の展望について論じます。
アフリカ諸国の医療インフラは現在でも問題や課題が山祇になっています。ここでは、実際にどのような問題や課題が持ち上がっているのかをお伝えします。

アフリカの多くの地域では、都市部に比べて地方部の医療施設が圧倒的に不足しており、医療へのアクセスが制限されています。そのため、病気やけがをしても、医療機関を利用することができない状況です。
医療機関がその地域にあったとしても、既存の医療施設も老朽化している場合が多く、設備や人材が十分に整っていません。ですので、レントゲンやエコーなどの最新設備を導入することもできていない施設がほとんどです。
また、医療施設はあったとしても医師や看護師の数が不足しており、1万人当たりの医師数は世界平均を大きく下回っています。
アフリカ諸国の一般的な医療機関では、人口1,000人当たりの医師数が0.1未満であるのに対し、日本では約2.5人という比率になっています。このため、日本の一人当たりの医師数は、これらのアフリカ諸国と比較して約25倍となります。
さらに、中央アフリカ共和国では、人口1,000人当たりの医師数が0.07人であり、日本の約2.5人と比較すると、日本の一人当たりの医師数は中央アフリカ共和国の約36倍となります。
このことからも分かるように、アフリカ諸国では日本や他の欧米諸国に比べて圧倒的に医師や医療スタッフの数が不足しているため、医療サービスにも負の影響を与えています。
※参照URL:アフリカの医療の現状を知り、子どもや妊婦の命を守るために必要な支援を考えよう
※参照URL:中央アフリカ基礎データ|外務省
※参照URL:中央アフリカ共和国の医師人口の割合(推移と比較グラフ) | GraphToChart(GTC)

医療インフラや医療スタッフが補充されても、医薬品や医療機器の供給が不安定なため、患者さんの診断や治療が受けられないという地域も多くみられます。
特に地方部では必要な医薬品が届かないことがあります。医薬品だけでなく、ケガやワクチンなどに必要な消毒液や包帯など医療サービスに関連した医療物資の不足も大きな課題の1つになっています。
また、政府や民間セクターからの資金提供が限られており、医療インフラへの投資が遅れていることも今後の課題の1つです。内乱や政治的な不安定により、医療サービスや医療インフラに予算をかけない国もあります。このため、公共医療機関は慢性的な資金不足に悩まされています。
※参照URL:アフリカの保健分野に対する ⽇本の協⼒の在り⽅に関する調査業務 報告書
※参照URL:アフリカの医療問題、現状を知り必要な支援を考えよう
スタートアップの支援はアフリカ諸国の医療サービスの改善に多大なる貢献をすると考えられています。ここでは、なぜアフリカ諸国にはスタートアップのサポートが必要なのか、その理由も踏まえて説明していきます。

スタートアップへの資金提供は、革新的な医療ソリューションを開発するための原動力となります。特に、アクセラレーターやインキュベーター(※1)を通じた投資プログラムが、医療分野のスタートアップを支援しています。
実際に、アフリカ開発銀行が支援した研究では、ヘルスケアの提供、管理、研究にテクノロジーを適用することで、より多くのアフリカ人にユニバーサルヘルスカバレッジを提供し、国連の持続可能な開発目標の達成を大きく前進させる可能性があると指摘しています。
また、「Health care in Africa」の記事によると、2023年にはアフリカの女性主導のヘルステック企業への投資が2,000%増加したことが報告されています。
※1:アクセラレーターとインキュベーターは、スタートアップ企業の成長を支援する組織やプログラムを指しますが、目的や支援内容、期間に違いがあります。
アクセラレーター(Accelerator): シード期以降の未上場企業や起業家、一般企業の新規事業部門などの成長を急速に促進するための支援プログラムを提供する団体・組織です。支援期間は3カ月から6カ月程度が多く、事業計画の公募・選考を経て、選ばれた企業に対してメンターシップやリソース提供、ネットワーキングの機会を提供します。
インキュベーター(Incubator): シード以前、特に創業直後の未上場企業を対象に、起業や新たな事業の創出を支援する組織です。支援期間は数年間から無期限の場合もあり、オフィススペースの提供、ビジネスモデルの策定支援、資金調達のサポートなど、企業の基盤作りを手助けします。The University of Tokyo IPC
※参照URL:https://www.prosperafrica.gov/wp-content/uploads/2024/01/Prosper-Africa-Healthcare-Investment-Report2023vFDIGITAL.pdf?utmsource=chatgpt.com
※参照URL:Health care in Africa: Emerging technologies at play
スタートアップは、モバイルアプリ、人工知能(AI)、ブロックチェーンなどの先端技術を活用して、医療システムの効率化と透明性を向上させています。これにより、診療の質や医療データの管理が改善されるようになります。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの政策文書によれば、アフリカ諸国におけるデジタルヘルスケアソリューションの採用が徐々に進んでいることを指摘しています。
特に、ケニア、南アフリカ、エジプト、ナイジェリアなどでの事例を紹介し、Helium Healthのような企業が電子医療記録(EMR)や遠隔医療を提供し、医療提供を改善していることを述べています。
また、Prosper Africaの報告書によれば、診断サービスへの投資やテクノロジー技術の提供は、電子カルテの普及や診断の時間短縮に大変役立つため、疾病の早期発見と管理の改善のための大きなアシストになると強調しています。
※参照URL:Advancing Health Equity in Africa
※参照URL:https://www.prosperafrica.gov/wp-content/uploads/2024/01/Prosper-Africa-Healthcare-Investment-Report2023vFDIGITAL.pdf?utmsource=chatgpt.com

日本からは、平成 26 年5月に成立した「健康・医療戦略推進法」に基づき、同年6月に健康・医療戦略推進本部が設置され、同年7月には「健康・医療戦略」が閣議決定されています。その閣議以降、さまざまなスタートアップがアフリカ諸国のヘルスケア向上のために尽力しています。
その閣議では日本はアフリカ諸国でのヘルスケアに対し、「富士山型ヘルスケアシステム」というコンセプトを打ち出しています。「富士山型ヘルスケアシステム」とは、A.人材、B.サービス・製品、C.基盤から成り立つ3つの柱を富士山の形に見立て、広範囲かつ包括的なヘルスケア構築の理念です。このシステムは、アフリカ諸国の特性を踏まえ、医療・介護から健康な生活を支える仕組みまでを統合的に構築することを目指しています。
その中で、医師、看護師のみならず、コミュニティ・ヘルス・ワーカー、臨床検査技師、栄養士、助産師、安全・環境・衛生に関する専門家といった幅広い分野における医療・ヘルスケアサービス関係者の人材育成にも取り組もうとしています。
また、各々の人材や拠点の能力・機能を最大限発揮するためには、物流や備品管理といったロジスティクスの構築を人材育成と合わせて行うことが重要であると述べています。
実際に、日本政府では、高度な医療機器を使用する医療者の技術向上のため、現地大学と連携した日本の大学等による知見の共有を行うことにより、メディカルエンジニアの育成を行うことも視野に入れ活動をしています。
加えて、各国中央政府・地方政府内においてこういった取組を理解し、適切な政策を立案・運用できる政策人材の育成も重要であることから、アフリカで活動を行っている様々な公的セクター(世銀、国連、JICA、JETRO、政府系金融機関、(一社)メディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)等)とも連携することを目指すと明言しています。
※参照URL:アフリカ健康構想に向けた基本方針

アフリカにおける物流・人道支援供給チェーンは、不十分なインフラ、政情不安、頻発する自然災害といった大きな課題に直面しています。
これらの問題は、必要不可欠な医薬品や援助を遠隔地に届ける際の障害となり、在庫切れ、通関の遅れ、物流のボトルネックといった混乱が状況を悪化させています。
それだけでなく、アフリカ諸国自体の不安定な政府、汚職、限られた資金が、効果的なサプライチェーン・マネジメントをさらに妨げているという報告がされています。
こうした課題に対処するためには、政府、NGO、スタートアップが連携して、回復力、調整力、医療・人道サービスへのアクセスを改善する必要があり、以下のことを早急に解決すべきであると考えられています。
・ラストマイル・デリバリー :遠隔地における配達のアクセスと効率を改善する。
・サプライチェーンの回復力: パンデミックや災害などの混乱への備えを強化する。
・品質保証: 保健・援助製品の規制基準へのコンプライアンスの確保
・テクノロジー・ソリューション:より良いサプライチェーンの可視性と意思決定のためのデータとテクノロジーの活用。
・パートナーシップとコラボレーション:政府、NGO、民間セクター間の連携を強化する。
・倫理的な解決: サプライチェーンにおける透明性、公正な労働、社会的責任の推進
・ 政策分析: サプライチェーンの回復力とサービスへのアクセスを改善するための政策改革を提唱します。
スタートアップはアフリカ諸国の課題の解消のためだけでなく、アフリカという母体数の大きなマーケットの進出拡大のためにもその必要性が叫ばれています。
※参照URL:アフリカヘルステック企業の最新動向を徹底解説
※参照URL:Analysis of challenges of medical supply chains in sub-Saharan Africa regarding inventory management and transport and distribut
※参照URL:Health & Humanitarian Supply Chains
ここでは、その主な取り組みと成功事例をご紹介いたします。アフリカで急成長中のデジタルヘルスケアスタートアップにもありますので、ぜひ一緒にみてみてください。
概要: 血液や酸素、医療物資の物流を効率化するプラットフォームを運営。
成果: 必要な医療資源を迅速に届けることで、緊急医療の対応時間を大幅に短縮。これにより多くの命が救われています。
LifeBank は、ナイジェリアを拠点とするヘルステック企業で、医療物資の物流を効率化することで命を救うことを目指しています。2016年に起業家 Temie Giwa-Tubosun によって設立され、特に血液、酸素、医薬品などの医療物資の迅速な輸送に特化しています。最近では、ドローンを採用した輸送に尽力しています。
※参照URL:LifeBank

概要: ドローンを利用した医薬品や血液の配送サービスを提供する。
成果: 地方部や僻地の医療機関に迅速に物資を届けることで、アクセスの課題を解消。
Zipline は、アメリカを拠点とする物流スタートアップ企業で、医療物資を遠隔地に迅速に届けるためのドローン輸送サービスを提供しています。同社は特に ルワンダ と ガーナ において革新的な取り組みを行い、アフリカの医療インフラ改善に大きく貢献しています。
※参照URL:Zipline
概要: 薬局の在庫管理を支援し、医薬品のコスト削減を実現するプラットフォーム。
成果: 多くの人々が適正価格で医薬品を購入可能になり、慢性疾患患者の治療継続を支援。
mPharmaは、ガーナに本拠を置くヘルステック企業で、アフリカ全土での医薬品供給チェーンの効率化と医療アクセスの改善に取り組んでいます。
最近では、ガーナ、ナイジェリア、ケニア、ザンビア、ジンバブエなどの国々で250以上の薬局と提携し、約100万人のアフリカ人に高品質な医薬品を手頃な価格での提供が特徴になっています。
2020年には、CB Insightsの「世界で最も有望なデジタルヘルススタートアップ150社」にアフリカのヘルステック企業として唯一選出され、その革新性と影響力が認められました。
※参照URL:https://mpharma.com/
※参照URL:Ghana’s mPharma ranked as the most promising digital health startup in Africa
上記以外にも、新しいスタートアップが注目されています。

概要: オンラインで医師の予約や診療を可能にするプラットフォーム。
成果: 患者が簡単に医師を見つけ、診療を受けることができる環境を整備。
Vezeetaは、エジプトを拠点とするヘルステック企業で、患者が医師の検索、予約、オンライン診療、薬の注文を行えるプラットフォームを提供しています。このサービスは、医療サービスへのアクセスを容易にし、医師と患者の関係を再定義することを目指しています。 この会社のサイトでは、医師への評価もできるため次回の予約の参考になります。
※参照URL:Vezeeta
※参照URL:How Vezeeta Is Revolutionising the Doctor-Patient Relationship in Egypt | Egyptian Streets
概要: 医薬品供給チェーンをデジタル化し、物流の効率を向上させる。
成果: 在庫管理が改善され、医療機関での欠品率が減少。
Field Intelligenceは、2015年にナイジェリアで設立されたヘルステック企業で、アフリカの医薬品供給チェーンのデジタル化と最適化を通じて、医療アクセスの改善を目指しています。
特に、このスタートアップは母子保健サービスの強化に取り組んでいるのが特徴です。妊産婦死亡率の低減や新生児・児童の健康改善、栄養改善に取り組み、2024年9月には、ビル&メリンダ・ゲイツ財団から1,100万ドルの支援を受け、母子保健サービスを強化しました。
※参照URL:Field Intelligence

アフリカの医療インフラは深刻な状況に面しており、特に医療施設の人材不足、物量と供給チェーンの非効率、そして資金不足が大きな課題となっています。
地方部では医療施設が不足し、老朽化した施設も多いため、新しい機材などを設置できるような施設や場所も限られてしまうのが現状です。施設はあっても医師や看護師の数も不足しており、十分な診療が難しい現実もあります。
さらに、必要な医薬品が地方に届かず、治療の遅延や医療資源の無駄が生じる場合や、政府や民間セクターの資金提供が限られており、インフラ投資が遅れているという報告もされています。
そこで必要となってくるのがスタートアップ支援です。スタートアップの投資は革新的な医療ソリューションを実現し、モバイルアプリやAIを活用し医療システムを効率化できます。
それだけでなく、教育プログラムで医療従事者の支援もでき、ドローンなどを活用し、物流ネットワークの改善も可能になります。
現に、LifeBank(ナイジェリア)、Zipline(ルワンダ・ガーナ)、mPharma(ガーナ)、Vezeeta(エジプト)、Field Intelligence(ナイジェリア)などはスタートアップながら、その急速な成長や拡大は世界中から注目されています。
そのため、今後は政府や国際機関との連携強化、地域特化型ソリューションの開発、AIの活用拡大、地方部への普及を目指し、さらなるスタートアップの活躍が期待されています。
ライター紹介
増田さなえ
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。
この記事に関するお問い合わせや、アフリカビジネスに関するご相談は、Email [info@aa-healthdynamics.com]までお気軽にどうぞ!
この記事を書いたライター
増田さなえ
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。
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