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米政府の国際支援機関USAIDの今後とアフリカへの影響
公開日時:
2025/3/12 23:30
アメリカ国際開発庁(USAID)は、開発援助を通じてアフリカの経済成長や医療、教育、人道支援を支えてきました。しかし、米国のトランプ政権への交代や予算削減の可能性により、その活動は不確実性を増しています。今後USAIDが縮小・廃止されれば、感染症対策の停滞、食糧危機の深刻化、民主主義の後退など、多大な影響が予想されます。今回は、USAIDの現状と今後、そして、その存続がアフリカにとっていかに重要かを検証していきます。
アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)は、1961年にジョン・F・ケネディ大統領の下で設立された、米国政府の独立した機関であり、民間の海外援助と開発支援を担当しています。ここでは、その成り立ちや基本情報をお伝えします。
USAIDの設立は、1961年の「対外援助法(Foreign Assistance Act)」の成立に伴い、既存の援助プログラムを統合し、発展途上国の経済的・社会的発展を支援するために作られた機関です。
この機関の主な目的は、貧困の削減、民主主義の促進、経済成長の支援、人道的危機への対応など、多岐にわたる分野での支援を行うことです。
その歴史は古く、1961年にジョン・F・ケネディ大統領によって設立されました。これは、当時の冷戦時代における国際的な影響力を高めるためという見かたもありますが、基本的には発展途上国の支援を目的として設立されています。
世界100カ国以上で活動しており、その活動は、経済成長、民主主義、人道支援、環境保護など多岐に渡っています。
※参照URL:USAID.gov
※参照URL:United States Agency for International Development - Wikipedia

・正式名称: United States Agency for International Development(アメリカ合衆国国際開発庁)
・設立年: 1961年、本部所在地: 米国ワシントンD.C.
・管轄: 米国政府の独立機関として、国務省や国家安全保障会議の指導の下で運営されています。
USAIDは、設立以来、世界中の発展途上国や戦後復興国に対して、技術的・経済的支援を提供してきました。その活動は、教育、保健、農業、環境保護、ガバナンス強化など、多岐にわたる分野に及んでいます。
※参照URL:State and local governments | USAGov
ここでは、バイデン政権までUSAIDはどのような活動をしてきたのか、設立当時からの流れを見ていきましょう。

1961年「対外援助法(Foreign Assistance Act)」の制定によりUSAIDが設立。
「アライアンス・フォー・プログレス」(ラテンアメリカ支援プログラム)を開始。
発展途上国の経済発展を支援し、社会インフラ整備を促進。
「新援助戦略」として、開発支援の焦点を農業、保健、教育に移行。
「緑の革命」を支援し、農業技術と生産性向上を促進。
冷戦下での民主主義推進プログラム(Democracy Promotion Programs)を強化。
開発援助よりも、戦略的な国家への支援(中南米やアフガニスタン)にシフト。
民主化支援を強化し、旧ソ連諸国や東欧の市場経済移行を支援。
グローバルヘルスプログラムを開始(HIV/AIDS、マラリア対策)。
「持続可能な開発」の概念を推進。
2001年9月11日の同時多発テロ後、安全保障政策と開発援助が連携。
PEPFAR(HIV/AIDS緊急救援計画)を設立し、アフリカのHIV/AIDS対策を強化。
ミレニアム・チャレンジ・コーポレーション(MCC)を創設し、貧困国の経済改革支援を拡大。
イラク戦争・アフガニスタン戦争後の復興支援をUSAIDが主導。
グローバルヘルス・イニシアチブ(Global Health Initiative)を強化し、感染症対策を拡大。
「Feed the Future」プログラム(農業支援)を立ち上げ、食糧安全保障を推進。
気候変動対策の一環として、再生可能エネルギー普及を支援。
「Power Africa」を発足し、アフリカ諸国の電力供給改善に貢献。
「アメリカ・ファースト」政策の下、USAIDの予算削減が議論されたが、議会の反対で大幅な削減は回避。
対中国戦略の一環として、インド太平洋地域への援助強化。
中南米の移民問題対策として、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラへの援助を一時的に停止。
COVID-19パンデミックへの対応として、ワクチン供給や医療支援を実施。
USAIDの予算増額(COVID-19対策、気候変動対応、人道支援を強化)。
アフガニスタン撤退後の人道支援(難民・女性支援)。
ウクライナ支援(復興支援・経済援助)。
アフリカの開発援助強化(サミット開催、「Feed the Future」プログラムの拡大)。
気候変動対策への支援(途上国の環境対策支援)。
※参照URL:United States Agency for International Development - Wikipedia
2024年の大統領選では、バイデン氏を破りトランプ氏が4年ぶりに大統領に返り咲きました。そこで、トランプ政権(2025年)に代わり、USAIDがどのような変化を遂げたのかをお伝えしていきます。
2025年1月24日、トランプ大統領は全ての外国援助プログラムを90日間停止し、再評価する大統領令14169号を発令しました。これにより、USAIDの活動が大幅に制限されました。
これにより、国務省はエジプトとイスラエルへの軍事援助および緊急食糧援助を除く全ての既存の対外援助プログラムを停止し、1月28日には、人命救助に直結する医療サービスや食糧、避難所提供などの人道支援プログラムが例外として追加されました。
しかし、家族計画や多様性・公平性・包括性(DEI)関連のプログラムなどは除外されました。 この援助停止により、ミャンマーからの難民を支援するタイの難民キャンプでの医療サービスが停止されるなど、多くの人道支援活動が中断されています。

また、現在ガザ地区での衛生キットや緊急避難所の提供も一時停止され、ワクチン配布の中断も報告されています。
この発令に対し、1月27日、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、米国の援助停止に深い懸念を表明し、追加の例外措置を求めました。
また、リベリアのジョセフ・ボアカイ大統領は、米国政府との緊急交渉を開始し、既に承認された資金の確保を図りました。
そのほか、ケニアの外務省首席秘書官コリル・シンゴエイ氏も、最も脆弱な人々を支援するための新たな道筋を期待する声明を発表しました。
※参照URL:https://www.asahi.com/articles/AST2X72C6T2XUHBI03XM.html
※参照URL:https://en.wikipedia.org/wiki/Executive_order
※参照URL:The Supreme Court just handed the Trump administration a win on USAID
この援助停止に伴い、USAIDの職員数は約10,000人から約300人にまで削減され、多くの人道支援プログラムが中断されました。
2月8日、連邦地裁判事カール・J・ニコルズ氏は、USAID職員2200人を有給休暇にする計画を一時停止しましたが、2月23日にはこの決定を覆しました。
また、2月13日には、連邦地裁判事アミール・アリ氏が、USAIDと国務省の資金削減に関する行政命令14169号の一部を一時的に差し止める命令を出しました。

しかし、トランプ政権はこれらの法的挑戦にもかかわらず、援助削減の方針を継続しています。 現在、USAIDの職員は海外への移転を命じられており、今後は海外支部をそれぞれの拠点にし活動していくと言われています。
アメリカの援助凍結は、他のヨーロッパの援助国も援助を縮小していることを意味しています。英国は2027年までに援助支出を年間0.5%から0.3%(92億ポンド)に削減し、国防費の増加に充てると発表しています。
※参照URL:US to axe grants to 10,000 aid organisations
※参照URL:※参照URL:USAID workers say goodbye to headquarters as Trump drastically cuts foreign aid | Reuters
外国への援助打ち切りをうけ、HIVやマラリアなどの感染症対策、教育支援、食糧援助など、多くの国際的な支援プログラムが停止し、世界中の脆弱なコミュニティに深刻な影響を及ぼしています。
米国の援助削減は、特にエイズの蔓延を食い止めるための闘いに大きな打撃を与えており、世界中で毎日約2000万人に抗レトロウィルス薬を配布しているPEPFAR(ピーファル)(※1)はこの資金提供の打ち切りによる損害に関して、支援団体による2つの裁判を起こしています。

また、HIV感染者が760万人に達している南アフリカのいくつかの医療機関や研究大学には、プログラムを直ちに中止するよう求めるメールが米国政府から届いています。
フィナンシャル・タイムズ紙が見た電子メールによれば、米国の国務長官であるルビオ氏は、これらの団体への資金援助は「政府機関の優先事項とは一致せず、このプログラムを継続することは国益に反する」と判断しています。
ケープタウン大学の医学部教授で、デズモンド・ツツ・ヘルス財団の最高責任者であるリンダ=ゲイル・ベッカー氏は、突然の打ち切りに、緊急時対応策を講じることは不可能になったと述べており、各国に大混乱が起きている状況です。
※1:PEPFAR(ピーファル)とは、米国大統領エイズ救済緊急計画(U.S. President's Emergency Plan for AIDS Relief)のことで、米国政府がHIV/AIDSのパンデミックを制御するために実施しているプログラムです。
※参照URL:Trump admin cutting more than 90% of USAID's foreign aid contracts: docs
※参照URL:How Trump Gutted America’s $40 Billion Aid Agency in Two Weeks - WSJ
トランプ政権以前から、USAIDはアフリカに多くの恩恵をもたらしてきた一方で、援助依存の助長や現地経済の歪み、汚職の温床になるといった負の側面も指摘されていました。ここでは、新政権になりUSAIDがアフリカ諸国にどのような弊害をもたらす可能性があるのかを推察していきます。
コンゴ民主共和国では、エボラ出血熱に似た症状を持つ原因不明の疾患が発生し、既に1,000人以上が感染、60人以上が死亡しています。USAIDの解体により、こうした新興感染症への迅速な対応が困難となり、地域社会への脅威が増大しています。
今までの経緯を見ても分かるように、トランプ政権はほとんどの海外支援を打ち切ってしまう宣言を出しました。また、USAID自体も多く職員は長期休職または海外支部へ徐々に転勤するというようにその存在自体を無くそうとしています。
USAIDの活動停止により、アフリカ各地でのHIV/AIDSやマラリアなどの感染症対策が中断され、多くの患者が治療を受けられない状況に陥っています。
特に南アフリカでは、HIV陽性者が800万人以上おり、そのうち550万人がPEPFAR(大統領緊急エイズ救済計画)の支援を受けていましたが、これらのプログラムが停止したことで、患者の命が危険にさらされています。
※参照URL:Democratic Republic of the Congo deepens investigation on cluster of illness and community deaths in Equateur province | WHO | Regional Office for Africa
※参照URL:Executive Order 14169 - Wikipedia

国連世界食糧計画(WFP)は、米国の援助削減により南部アフリカ事務所を閉鎖せざるを得なくなりました。これにより、干ばつなどの影響で食糧支援を必要とする数百万人の人々への援助が滞る可能性があります。
また、食料支援のほかにも、障害を持つ子供たちへの教育支援を行っていた組織「Inclusive Development Partners」は、USAIDからの資金提供が打ち切られたことで、破産の危機に直面しています。これにより、アフリカの障害児が教育を受ける機会が失われています。
ケニアでは、障害を持つ子どもの70%が診断されず普通クラスで授業を受けなくてはいけません。そこで去年発足したのがケニア初等識字プログラムでした。しかし、そのプログラムも中止になってしまいました。
※参照URL:Her Small Business Helps Disabled Kids Learn. USAID Cuts Have Pushed It Toward Bankruptcy
米国の援助削減により、中国が「一帯一路構想(Belt and Road Initiative, BRI)」を通じてアフリカでの影響力を強める可能性があります。USAIDの撤退は、アフリカ諸国における米国の戦略的利益を損なう恐れがあります。
一帯一路構想(BRI)は、中国が2013年に発表した大規模な経済圏構想のことであり、アジア、アフリカ、ヨーロッパを結ぶインフラ投資と経済協力の枠組みです。
このプロジェクトは、かつてのシルクロードから着想を得て、「シルクロード経済ベルト(陸路)」と「21世紀海上シルクロード(海路)」の2つのルートを通じて、貿易と経済発展を促進することを目的として作られました。

アフリカでは、中国が鉄道や港湾、道路などの大規模インフラ開発を進めており、多くの国が中国の融資を受けています。しかし、過剰債務の問題や、中国への依存が強まりすぎるリスクも指摘されています。
そのため、高額な借入による「債務の罠」外交(返済不能時の戦略資産譲渡)や一部のプロジェクトの環境・社会影響への懸念など、中国の影響力が過度に強まり、各国の主権が侵害される可能性が強まると予測され、アフリカ各国で混乱が生じつつあります。
※参照URL:Hundreds of US diplomats join letter to Rubio to protest dismantling of USAID | Reuters
※参照URL:USAID cuts put tuberculosis response in peril, WHO says | Reuters
※参照URL:Navigating the Belt and Road Initiative
トランプ政権下でのアメリカ国際開発庁(USAID)の解体と外国援助の大幅削減は、アフリカ諸国に深刻な影響を及ぼすと予測されています。
現に、HIV/AIDS対策や食糧支援、教育プログラムの停止により、多くの人々の生活が危機にさらされており、特に南アフリカのHIV患者支援や、世界食糧計画(WFP)の南部アフリカ拠点閉鎖は、米国の影響力低下を象徴しているケースと言えるでしょう。
諸外国では、この空白を埋める形で、中国が「一帯一路」構想を通じてアフリカ諸国への経済支援とインフラ投資を強化し、地域の影響力を拡大すると予測されています。
米国の撤退によって、アフリカ諸国の対外関係が変化し、中国への依存が進むことで「債務の罠」や経済主権の喪失が懸念され、アフリカ諸国は今後大きな変革期に入ると言われています。
USAIDの縮小は、単なる援助削減にとどまらず、アフリカの地政学的バランスにも大きな変化をもたらしています。
この記事に関するお問い合わせや、アフリカビジネスに関するご相談は、Email [info@aa-healthdynamics.com]までお気軽にどうぞ!
この記事を書いたライター
増田さなえ
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。
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