AA Health Dynamics Original Contens

blog / 

住友商事とSafaricom社の提携が示すM-PESAの可能性

住友商事とSafaricom社の提携が示すM-PESAの可能性

公開日時:

2024/1/5 23:30

ケニアをはじめ、アフリカ各地で市場を拡大中の携帯電話を利用した送金サービス「M-PESA」。「M-PESA」を運営するケニアのモバイルマネー事業者「M-PESA Africa Limited」(以下、M-PESA社と言う。)が傘下に入るケニアの通信会社「Safaricom社」自体は17年の歴史を持つ企業であるが、近年、日本の住友商事も提携し、M-PESAの事業に参画し始めている。本記事では、住友商事とSafaricom社、M-PESA社によるM-PESAへの提携の現状と、それによるM-PESAの今後の可能性について考察する。

日本企業のアフリカ進出の現状とは

まず、本題の住友商事とSafaricom社、M-PESA社の提携の話に入る前に、日本企業のアフリカ進出の現状について、簡単に見ていこう。

近年、日本企業によるアフリカへの投資は増加傾向にあることが挙げられる。特に日本企業の投資の拠点数は、2010年時点の520拠点から、2023年時点で948か所に上っている。この13年で2倍近くにまで増えていることとなる。

アフリカの国別にみると、南アフリカ共和国が255か所もの日本の投資拠点を持っており、アフリカ大陸の中で、最も多くの拠点を持っている国となっている。その後、ケニア(118拠点)、モロッコ(70拠点)、エジプト(65拠点)、ナイジェリア(51拠点)と続く。この中でも、特にケニアの拠点数増加のスピードは高い。2019年に同国での拠点数が31か所であったことをみると、この5年ほどで4倍近くにまで増加していることがわかる。

アフリカに進出する日本企業の中でも、自動車産業をはじめとする製造業の存在感は非常に大きい。その一方で、スタートアップのビジネスに進出する日本企業は増加傾向にあると同時に、インフラ整備関連の産業に参画する日本企業もいまだに多い。

また、アフリカに進出している企業の70%近くが、近い将来の市場規模拡大をアフリカへの投資の理由として挙げている。その一方で、現地でのさまざまな規制や法令の運営が様座であることや、不安定な政治的・社会的情勢等をアフリカ投資へのリスクと考える企業はいまだに多い。

そのような状況ながら、特にケニアに関しては、「言語・コミュニケーション上の障害の少なさ」や「駐在員の生活環境」などの評価が高いことが特徴となっている。ケニアの持つこのようなアドバンテージが、日本企業進出の後押しとなり、住友商事によるSafaricom社の提携もこうした流れの一旦であるとも考えることができるであろう。

参考URL 日本企業のアフリカへの進出動向、拠点数は増加傾向 | アフリカでのビジネス事例 - 特集 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ
参考URL https://www.jetro.go.jp/extimages/News/releases/2020/4a27660ec7fa4617/africa.pdf参考URL https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/enrich/contents/0024/

Safaricomと住友商事の提携1 スパーク・アクセレクレイター・プログラム(ケニア)

ここからは、Safaricom社と住友商事の提携の具体例についてみていくことにしよう。最初のケースは、ケニア国内における取り組みである。

2023年11月に住友商事とSafaricom社、M-PESA社の3社共同で、ケニア国内のフィンテック分野などを対象としたアクセラレーター・プログラムを開始することを発表した。プログラム名は「スパーク・アクセラレーター・プログラム」という。

アクセラレーター・プログラムとは、いわゆる起業家支援と呼ばれるものに近いと考えても良いだろう。革新的な技術やビジネスモデルを保有するスタートアップ企業に対し、大企業が新事業創出や製品開発に必要なノウハウの提供などを行い、成長を加速させる取り組みのことである。つまり、このプログラムを通して、住友商事はケニア国内のスタートアップ企業を本格的に支援する方針を固めた、ということになる。

「スパーク・アクセラレーター・プログラム」の期間は3か月間。プログラムの参加者は、資金調達や市場獲得などのためのトレーニングを受けることができるシステムとなっている。

この「スパーク・アクセラレーター・プログラム」が発表され、参加を希望するケニア国内のスタートアップ企業の募集を開始し、住友商事とSafaricom社、M-PESA社で選考した結果、2024年の1月にから9つの企業がこのプログラムに参加することになった。

プログラム参加企業は以下の企業である。

①Chumz (https://chumz.io/

・預金を増やしたい人たちに対して、行動心理学に基づいたモバイルマネーやモバイルゲーミングのサービスを提供。

②Nobuk (https://www.nobuk.africa/#)

・アプリケーションを利用した集金サービスを提供。寄付から結婚式の御祝儀まで対応できるアプリケーションとのこと。

③Chpter (https://engage.isaca.org/kenyachapter/home

・WhatsAppやInstagram のような既存のプラットフォームでの支払いやマーケティングを通じて、中小企業の経済活動を促進。

④Faidi HRhttps://faidihr.com/

・クラウドを利用した支払いと人材活用のシステムを制作。

⑤Churpy (https://www.churpy.co/

・企業の財務部門のオートメーション化を進めるシステムを開発。

⑥Twiva (https://twiva.com/

・メーカーがインフルエンサー等にもアクセスできるような、ECサービスのプラットフォームを制作。

⑦HealthX Africa (https://www.healthxafrica.com/

・スマートフォン経由で、ケニアの全人口が医者に見てもらえるようになることを目標とした、データドリブンのアプリケーションの開発。

⑧BlackRhino VRhttps://www.blackrhinovr.com/

・映像会社。映画からVRのビデオまで制作。

⑨VunaPay (https://www.vunapay.com/

・小規模農家のためのネット経由の支払いシステム等を制作。

上記の9社を見て気が付くこととしては、まず、プログラムに参加する企業の業界が非常に多様であることが挙げられるだろう。モバイルマネーから映像会社、農業関係まで幅広い企業がこのプログラムに参加していることがわかる。

加えて、中小企業や小規模農家をターゲットにした商品を開発・販売している企業が多い。M-PESAが一般的な金融システムになる前の時代には、こうした中小企業や小規模農家は金融サービスを受けることが非常に難しい人々であった。つまり、財やサービスを提供する企業側から見ると、M-PESAの拡大により、消費者としてターゲットになる可能性のある人々が増加したと考えることもできる。

加えて、ケニア自体、非常に起業家精神がゆたかな国として、国際的に知られているという一面もある。日本企業もケニア進出の動機の一つに、この国のスタートアップ企業の豊富さを挙げることが少なくない。

住友商事はこの「スパーク・アクセラレーター・プログラム」を通じて、ケニアのスタートアップ企業との関係を作ることはもちろん、そうしたスタートアップ企業がターゲットとしている市場に関して、最新の知見を得られるようになるだろう。そのことが同プログラムに住友商事が参加する、重要な動機であると考えることができるのではないだろうか。

参考URL SafaricomおよびM-PESA Africaと共同でアフリカにおけるアクセラレータープログラムを開始 | 住友商事
参考URL https://africabusinesscommunities.com/tech/tech-news/kenya-safaricom-m-pesa-africa-and-sumitomo-corporation-launch-spark-accelerator-program-for-local-startups/
参考URL https://ihub.co.ke/https-ihub-co-ke-nine-early-stage-startups-selected-to-benefit-from-the-sparkaccelerator-program/
参考URL https://thebridge.jp/2020/08/sustainability-report-2019-pickupnews
参考URL Safaricom, M-Pesa and Sumitomo partner to support Kenyan start-ups - Developing Telecoms
参考URL [Kenya] Safaricom, M-PESA Africa and Sumitomo Corporation launch Spark Accelerator Program for local startups - Africa Business Communities
参考URL https://www.vodafone.com/news/technology/safaricom-m-pesa-africa-and-sumitomo-corporation-search-for-tech-startups

Safaricom社と住友商事の提携2 通信事業への参入(エチオピア)

Safaricom社はいまやケニア国外にも進出している企業である。M-PESAのサービスだけをみても、インドにまで進出しており、正真正銘の多国籍企業となっている。

しかし、意外なことにケニアの隣国のであるエチオピアにSafaricom社が進出したのは、2023年後半のことである。つい最近まで、Safaricom社は隣国に進出できず、M-PESAのサービスをエチオピアで提供することもできなかったのである。

2010年代前半まで、エチオピアはデジタル化が遅れていた国であった。しかし、同時期の隣国ケニアでのM-PESAの発展などを目撃したエチオピア政府は、自国の国際的なデジタルデバイドの遅れを認識する。そこから社会のデジタル化による雇用拡大や貧困解消など持続可能な経済成長の実現を目的とした経済政策である「Digital Ethiopia 2025」を策定し、その一環として2019年より通信市場の自由化に踏み切ったのである。

Safaricom社と住友商事がエチオピアへの進出を発表したのは、2021年5月。同年7月には現地事業会社 のSafaricom Telecommunications Ethiopia PLC(以下、STEPと言う。)を設立した。ちなみに、同社は、エチオピア国内で最初の非エチオピア国籍の企業による通信会社である。また同社には、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)が出資・融資及び投資保証 を行っており、国際的にも期待が高い事業であることがわかる。

STEPは2022年8月に通信事業を開始し、2023年5月時点で契約数が300万を超えている。現在エチオピアでの携帯電話所持率は約40%と言われているが、2030年までにエチオピアのほぼ全人口が携帯電話を使えるようになる計画であると住友商事が発表している。ちなみに、エチオピアの全人口は1億2000万人とほぼ日本と同じで、アフリカ諸国の中では2番目に人口の多い国である。

このようにSTEPがエチオピアで活動をしている中、2023年8月からM-PESA Safaricom Ethiopeaが事業をスタートした。2024年5月の時点で、M-PESA Safaricom Ethiopeaの登録者は4500人、63000のエチオピアの小売り企業がM-PESA Ethiopeaのミニ・アップに登録し、12の銀行と提携を結んでいる。

エチオピアで、住友商事はSTEPを通じて、通信産業や小売業へとその影響力を拡大していく最中であるといえるだろう。

参考URL エチオピアにおける通信事業への参入について | 住友商事株式会社のプレスリリース
参考URL https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/sustainability/communication/ethiopia-interview/index.html
参考URL https://www.ifc.org/ja/pressroom/2023/27621
参考URL https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/05/55e168eed4e818f4.html
参考URL https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000771.000000726.html
参考URL サファリコムの上半期純利益は17.7%減少、エチオピアの通貨安が収益を圧迫(エチオピア、ケニア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
参考URL https://www.safaricom.co.ke/annualreport_2024/scaling-our-operations-in-ethiopia/m-pesa-in-ethiopia/
参考URL https://www.connectingafrica.com/mobile-money/safaricom-enables-m-pesa-transfers-between-kenya-ethiopia
参考URL M-PESA、エチオピアでサービス開始(エチオピア、ケニア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

まとめ  日本企業視点から見たM-PESAの可能性とは

今回の記事では、住友商事がSafaricom社と共同で行っている、ケニアのプログラムとエチオピアの通信産業への進出についての経緯を見てきた。

ケニアの「スパーク・アクセラレーター・プログラム」は、すでにM-PESAが社会インフラとして国民に認識されており、そうした環境の中でさまざまな分野のスタートアップ企業をバックアップすることで、住友商事の存在感をケニアの中で高めることになるだろう。

一方、エチオピアでのM-PESAはサービスを国内で開始したばかりではあるものの、急速にその使用者数を増やしており、住友商事にとっては、近い将来の携帯電話所持台数の増加などを見越した、同国への進出方法であったといえるだろう。

また、これから海外で活動する企業には、利益を上げることと同じくらい、現地の社会や経済に良い影響を残すことが求められる。日本企業にとってM-PESAの可能性とは、現地の人々の経済活動と近いチャンネルをもつことで、実際に現地でどのような経済活動や社会資本が必要となっているのか、知見を得るチャンスとなることにもあるのではないだろうか。

著者 對馬由佳理
北海道函館市出身、現在スペインのサラマンカ在住。サラマンカ大学でPhDを取得(ラテンアメリカ研究)後は、スペインでライターや通訳・翻訳者として活動中。

お問い合わせ

この記事に関するお問い合わせや、アフリカビジネスに関するご相談は、AA Health Dynamics株式会社のお問合せフォーム、または、Email [info@aa-healthdynamics.com]までお気軽にどうぞ!

この記事を書いたライター

對馬由佳理

ライター紹介 北海道函館市出身、現在スペインのサラマンカ在住。サラマンカ大学でPhDを取得(ラテンアメリカ研究)後は、スペインでライターや通訳・翻訳者として活動中。

関連記事

2024/12/27 14:03

アフリカの現地課題に応える、ドクタージャパン株式会社の高品質医療針とトータル技術支援

ドクタージャパン株式会社は、日本の精密医療機器技術を礎に、アフリカの医療課題解決に本格的に挑戦しています。麻酔針・生検針などの高品質医療機器を現地ニーズに合わせて改良・提供するだけでなく、医療従事者への技術研修や物流体制の整備にも力を注いでいます。単なる製品供給を超え、持続可能な医療体制構築を目指す...

2025/10/2 23:30

2024/7/10 14:20

アフリカ母子の命を守る——African Mothers株式会社の挑戦とデジタル保健サービスの最前線

アフリカでは現在でも妊産婦や新生児の死亡率が高く、医療アクセスや情報共有が深刻な課題となっています。African Mothers株式会社は、妊婦の健康記録をデジタルで一元化するパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)アプリを開発し、命を守る情報ネットワークを構築しています。この記事では、アフリカの母...

2025/9/25 23:30

2024/12/27 14:03

ツインバードの先端冷却技術で拓くアフリカ医療インフラ革新

日本の家電メーカー・ツインバードは、独自の冷却技術を武器に、ワクチン輸送や医療インフラの課題解決を目指してアフリカでの事業展開を拡大しています。TICAD9公式イベントにも登壇した同社の挑戦は、日本の中小企業が社会課題と新興巨大市場の双方に応える“国際展開モデル”として大きな注目を集めています。本編...

2025/9/18 23:30

2024/12/27 14:03

Africa Health ExCon 2025 開催まとめ

2025年6月、エジプト・カイロで開催されたアフリカ最大級の医療展示会「Africa Health ExCon 2025」には、医療・ヘルスケア分野の最新技術や製品が世界中から集結しました。中でも、日本企業の出展が大きな注目を集め、現地の課題に即したソリューション提案が高く評価されました。本記事では...

2025/9/11 23:30