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社会課題解決×持続的ビジネス――住友化学に学ぶアフリカ進出の二刀流戦略

社会課題解決×持続的ビジネス――住友化学に学ぶアフリカ進出の二刀流戦略

公開日時:

2025/5/22 23:30

アフリカ市場への進出を目指す日本企業にとって、社会課題の解決と持続可能なビジネスモデルの両立は大きなテーマです。住友化学は、長期残効型防虫蚊帳「オリセット®ネット」や室内残効性スプレー剤「スミシールド™50WG」など、独自の化学技術を活用した感染症対策資材を現地生産・供給し、マラリアなどの公衆衛生課題に挑戦。さらに、農業支援や教育活動、現地雇用の創出にも注力し、地域社会の持続的発展に貢献しています。この記事では、住友化学のアフリカ事業の全貌と、現地密着型の社会課題解決型ビジネスのヒントを詳しく解説します。

防虫剤加工蚊帳「Olyset Net」の供給によるマラリア予防

住友化学は、化学技術を活用した社会貢献活動を世界規模で展開しています。特にアフリカ諸国においては、深刻な公衆衛生問題であるマラリア予防や農業生産性の向上を目指し、アフリカ諸国のさまざまな国と協力して地域の持続的な発展に貢献しています。ここでは、実際にどのような活動を通じてアフリカ諸国に貢献しているのか、具体的なアフリカ諸国の国も例に挙げご紹介します。
マラリア発生国にとって、マラリア駆除は直接的に国民の健康に関わる重大課題となっています。ここでは、マラリアはどのような感染症なのかそして「Olyset Net」とはどのような特長と機能があるのかをお伝えします。

マラリア感染症の現状と課題

マラリアは、主に熱帯・亜熱帯地域で流行する寄生虫感染症で、マラリア原虫(Plasmodium)という寄生虫によって引き起こされます。

マラリアは、感染した雌のハマダラカが人を刺す際、唾液中の寄生虫(スポロゾイト)が人体に侵入することで感染し、その寄生虫は血流を通じて肝臓へ移動し、そこで増殖後、再び血流中に放出され、赤血球を侵してさらに増殖します。

人に感染するマラリアは4種類いますが、そのどれもが高熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、吐き気・嘔吐などを引き起こし、重症化すると、貧血、脳症(脳マラリア)、腎不全、呼吸障害などが生じ、適切な治療がない場合は死に至ることもあります。

2023年、世界で報告されたマラリア症例の約94%(2億6,300万件)と死亡者の約95%(約59万7,000人)がアフリカで発生しました。

特にナイジェリアとコンゴ民主共和国の2カ国で、全症例の38.5%、死亡者の42.2%を占めています。特に死亡者の約76%は5歳未満の子どもであり、依然として深刻な公衆衛生上の課題となっています。

※参照URL:https://www.cdc.gov/malaria/features/world-malaria-day/index.html

「Olyset Net」について

「Olyset Net」(オリセットネット)とは、住友化学が開発した長期持続型の防虫剤加工蚊帳(LLIN:Long Lasting Insecticidal Net)のことであり、現在もアフリカ諸国において、深刻な公衆衛生問題であるマラリアの予防に大きな効果を発揮しています。

「Olyset Net」は、ピレスロイド系殺虫剤が練り込まれた長期持続型の防虫剤加工蚊帳であるため、殺虫効果が約5年間持続し、洗濯後も効果が維持される点にあります。

また、この「Olyset Net」は、人体には害がなく、乳幼児や子どもたちのいる住居でも、安心して長期間使用できるところがメリットです。

そのほか、近年ではピレスロイド系殺虫剤への耐性を持つ蚊への対策として、新たな作用性を有する室内残効性スプレー剤「スミシールド™50WG」を開発しました。

この製品は、WHOの認証を取得し、2018年以降、アフリカ各国への供給が予定されています。

※参照URL:アフリカで事業を行っている日本企業 シリーズ③:住友化学株式会社
※参照URL:新しい作用性を有するマラリア対策製品「スミシールドTM50WG」がWHOの認証を取得 | 事業・製品 | 住友化学株式会社

国際保健機関や政府との協力

住友化学は世界保健機関(WHO)や各国政府との緊密な協力体制を構築し、「Olyset Net」を通じた包括的なマラリア予防プロジェクトを展開しています。

マラリア感染症の甚大な被害を受けているナイジェリア、ガーナ、タンザニア政府とは、蚊帳の配布から住民への教育啓発活動まで幅広い活動を一緒に行っています。

その中でも、住友化学ではマラリア予防に限定されず、その他の感染症への総合的な対応も目指しています。そのほか、地域特有の課題を踏まえ、衛生環境改善、健康教育などを含む幅広いプロジェクトを推進しています。

※参照URL:コラム 2 マラリアを撲滅するために

マラリア以外の感染症への取り組み

住友化学はマラリア感染症だけではなく、感染症自体への取り組みにも積極的に取り組んでいます。ここでは、実際に感染症に対してどのような取り組みを行っているのか見ていきましょう。

感染症対策資材の開発と普及

住友化学は、感染症対策資材の開発・普及を通じて、アフリカ諸国の公衆衛生の向上に寄与しています。具体的には、マラリアをはじめとする熱帯感染症を媒介する蚊などの防除により、人々を感染症から守る取り組みを進めています。

例えば、住友化学が開発した「オリセット®ネット」は、ポリエチレンにピレスロイド系殺虫剤を練り込んだ長期残効型防虫蚊帳です。洗濯しても効果が5年以上持続し、2001年には世界保健機関(WHO)から世界初の長期残効型蚊帳として認定されました。

さらに、殺虫剤抵抗性を持つ蚊にも効果を示す「オリセット®プラス」も開発され、より広範な感染症対策が可能となっています。

また、Olyset Net以外にも「スミシールド™50WG」というスプレーを開発しました。スミシールドは、殺虫剤抵抗性を持つ蚊にも効果を発揮する室内残効性スプレー剤です。

従来の殺虫剤に対する抵抗性を克服するために開発され、WHOの認証を取得し、2018年以降、アフリカ各国への供給が予定されています。

このスプレーの特長は「オリセット®ネット」と併用することにより、さらに高い防虫効果を得られ、粒剤で保管・運搬がしやすく、現地で水希釈をして壁面に散布することができます。

その他にも、住友化学は、蚊の発生源対策として、幼虫防除剤の開発・普及にも取り組んでおり、成虫になる前の段階で蚊の数を減少させることで、感染症の予防に寄与しています。

※参照URL:感染症への取り組み | コミュニティへの貢献 | 住友化学株式会社

教育支援と環境衛生の改善

感染源である病原菌は、不衛生な環境やそこに住む人たちの知識不足によっても感染症が拡大します。住友化学は感染症がうつる原因となる環境や教育にも焦点を当て、その改善に取り組んでいます。

例えば、ナイジェリアでは、オアンド財団と連携し、プラスチックリサイクル意識の向上を目指す「Clean Our World(COW)」プロジェクトを支援しています。

このプロジェクトでは、小学生に廃プラスチック問題やリサイクルに関する教育を提供し、地域の清掃活動や廃棄物回収を実施しています。

また、最近ではビニールやプラスチック製品による環境汚染が問題となってきていることから、できるだけサステナブルな生活をしようというSDG'sのポリシーに則った教育やキャンペーンも行われています。

※参照URL:https://www.sumitomo-chem.co.jp/sustainability/information/library/files/docs/SDB23_P155-225.pdf

人材雇用の拡大

住友化学の感染症対策資材は、アフリカ、中南米、東南アジアなどの地域で広く使用されています。特にアフリカ諸国では、現地生産や技術供与を通じて、地域社会の自立支援と雇用創出にも貢献しています。

また、住友化学は、これらの資材の普及を通じて、感染症から守られた人数をKPI(重要業績評価指標)として設定し、その成果を定量的に評価しています。

例えば、2022年度には、オリセット®ネット等の感染症対策資材により、約4億4,000万人が感染症から守られたと報告されています。

住友化学は、今後も新たな有効成分や製品の開発を進め、総合的なベクター防除プログラムを提案・普及していく方針です。

それ以外にも、気候変動の影響で脅威が増している昆虫媒介性感染症への対策として、幅広い技術プラットフォーム(ケミカル、バイオラショナル、ボタニカル等)を活用し、持続可能な社会にも力を入れて取り組んでいます。

※参照URL:https://www.sumitomo-chem.co.jp/ir/library/annual_report/files/docs/scr2024.pdf

農業支援を通じた地域経済の活性化

住友化学は、アフリカ諸国における農業支援を通じて、地域の食料安全保障や経済発展に貢献しています。以下に、ここでは実際にアフリカ諸国でどのような取り組みをしているのかご紹介します。

タンザニアにおける現地法人の設立

2014年、住友化学はタンザニアのアルーシャに「住友化学イーストアフリカ社」を設立しました。この子会社は、農業化学品の市場調査や研究・開発を目的としており、水稲やトウモロコシなどの主要作物を対象に、現地の農業課題に対応する製品の開発と販売を進めています。

また、家庭用・業務用殺虫剤などの生活環境事業の拡大も目指しています。特に、Olyset Netに関しては、2003年、住友化学はタンザニアのA to Z Textile Mills社に製造技術を無償供与し、現地生産を開始しました。

これにより、年間約3,000万張の生産能力を持つまでに拡大し、最大で約7,000人の雇用を創出しています。

※参照URL:タンザニアにおける新会社設立について | 事業・製品 | 住友化学株式会社
※参照URL:アフリカで事業を行っている日本企業 シリーズ③:住友化学株式会社

ナイジェリアやガーナにおける農業システムの改善プロジェクト

住友化学は、ナイジェリア連邦農業農村開発省(FMARD)や国際協力機構(JICA)と連携し、持続可能な稲作技術の導入や灌漑・農業機械化の改善を含む農業システムの改善プロジェクトに取り組んでいます。

このプロジェクトは、地元の協同組合と協力して、農業生産性の向上と農村経済の活性化を目指し発足されました。また、ガーナでは、住友化学が地元の機関と協力し、持続可能な農業慣行の促進や乾燥地域での灌漑の近代化を目的としたプロジェクトに参画しています。

この取り組みは、天然資源を保護しながら農業の収量を増加させ、食料安全保障の確保に貢献しています。

※参照URL:https://japanworldbridge.org/ja/top-des-projets-innovants-en-afrique

教育支援と地域社会への貢献

日本はこれまでアフリカ諸国に対して農業に関する惜しみない技術協力や支援を行ってきました。その中でも、住友化学は現在だけでなくこれからの人材を確保するために、教育にも力を入れて取り組んでいます。

実際に「Olyset Net」の収益の一部を活用し、現在でもアフリカにおける小学校の建設や教育支援を行っています。

また、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンと連携して、エチオピア、ケニア、ウガンダ、タンザニア、ザンビアの5カ国で9つのプロジェクトを支援し、小・中学校の校舎、教員宿舎、給食設備なども建設し、将来的に農業に従事する人材教育にも貢献しています。

※参照URL:https://www.sumitomo-chem.co.jp/sustainability/information/library/files/docs/csr_highlight2010.pdf

上記に挙げた国々だけではなく、住友化学はアフリカ諸国のさまざまな国に対する支援や技術協力も行っています。

ガーナではマラリア駆除への取り組みと並行し、中央地域を中心に感染症対策教育を推進し、蚊帳配布と並行した啓発活動を展開しています。

さらに、農業面ではカシューナッツやココアの収穫量向上を積極的に支援し、気候や災害に左右されない安定した作物作りを目指しています。

また、タンザニアでは特に地方農村部で蚊帳配布を実施し、マラリアへの被害を改善するとともに、農業では日本と同様に米が主食となるため、米栽培への技術指導を行い、現地農家の収入向上を支援しています。

2014年、同社はタンザニアのアルーシャに「住友化学イーストアフリカ社」を設立し、水稲やトウモロコシなどの主要作物を対象に、農業化学品の市場調査や研究・開発を行、アフリカの農業生産性向上と食料安全保障の確保に貢献しています。

その他にも、農薬や肥料、種子などの農業関連製品を提供し、農作物の安定的な供給や世界の人口増加に対応するための食糧増産に貢献しています 。

※参照URL:コメビジネスに参入 住友化学|ニュース|米
※参照URL:アグロ&ライフソリューション部門 | 住友化学株式会社

まとめ

住友化学は、感染症対策と農業支援の側面から、アフリカ諸国へ長年支援や技術協力を続けて行っています。

まず、感染症に関しては、マラリア予防のために長期残効型防虫蚊帳「オリセット®ネット」を開発し、2003年からタンザニアのA to Z Textile Mills社に製造技術を無償供与して現地生産を開始し、感染症予防だけでなく、現地での雇用創出と経済発展にも寄与しました。

また、マラリア感染症への対策だけでなく、住友化学は多角的なアプローチを行い、アフリカ諸国の人たちへ安定した生活への支援を現在でも続けています。

農業に関しては、2014年、住友化学はタンザニアのアルーシャに「住友化学イーストアフリカ社」を設立し、水稲やトウモロコシなどの主要作物を対象に、農業化学品の市場調査や研究・開発を行っています。

これにより、アフリカの農業生産性向上と食料安全保障の確保に貢献しています。これらの取り組みを通じて、住友化学は現時点でも、アフリカ諸国における公衆衛生の向上と農業の発展を支援し、地域社会の持続可能な成長に寄与しています。

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この記事を書いたライター

増田さなえ

米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。

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