
アフリカでは現在でも妊産婦や新生児の死亡率が高く、医療アクセスや情報共有が深刻な課題となっています。African Mothers株式会社は、妊婦の健康記録をデジタルで一元化するパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)アプリを開発し、命を守る情報ネットワークを構築しています。この記事では、アフリカの母子の現状、この会社が設立された背景、アプリの概要とメリット、そして今後の展望などをお伝えいたします。
アフリカの母子は実際にどのような現状なのでしょうか。ここでは統計データや国際比較を用いて現在のアフリカ諸国の母子の健康状態についてお伝えしていきます。

2020年のWHOの資料によれば、母体死亡率(MMR)は 531人/10万出生であり、世界全体の約 69%の妊産婦死亡がアフリカ諸国によるものです。
世界中の医療技術の進歩が進んでいる中で、アフリカ諸国の妊産婦死亡率はいぜんとして改善されていません。
また、アフリカ諸国内の国別で見ると、南スーダン:1,223人/10万出生(2020年)、チャド:1,063人/10万出生(2020年)、ナイジェリア:1,047人/10万出生(2020年)、中央アフリカ共和国:835人、ギニアビサウ:725人、リベリア:652人、レソト:566人、ケニア:530人、ベナン:523人などが非常に高い数値を記録しています。
特にUNICEFの2023年の統計によれば、サハラ以南アフリカでは、妊産婦死亡率が454人/10万出生 と非常に高水準です。
この数字は、日本(2.5人/10万出生)などの欧米諸国と比較すると、その差は圧倒的であり、この地域だけで世界の 約70%の妊産婦死亡が占めていることになります。
※資料URL:Maternal mortality
※資料URL:Maternal mortality rates and statistics - UNICEF DATA
アフリカにおける母子死亡率(妊産婦死亡率・乳幼児死亡率)が高い原因は、複合的かつ構造的な問題が絡み合っています。
特に、以下の5つは今後のアフリカ諸国の発展を支えるうえでも、最重要課題になっています。
・医療アクセスの制約(施設・人材不足)
・妊娠・出産時の直接的合併症(出血・高血圧・感染症)
・新生児・乳幼児の感染症と低出生体重
・貧困・教育不足・文化的要因
・HIVやマラリアなど基礎疾患の影響
最近では、HIVやマラリア治療薬もコロナ禍を境にかなり改善されてきました。その代わり、現在では貧困、教育不足、文化的要因がかなりの部分で死亡率の原因になっています。
※参照URL:Facility-Based Maternal Death in Western Africa: A Systematic Review
※参照URL:Utility of the three-delays model and its potential for supporting a solution-based approach to accessing intrapartum care in low- and middle-income countries. A qualitative evidence synthesis - PMC
※参照URL:Causes of maternal mortality in Sub-Saharan Africa: A systematic review of studies published from 2015 to 2020 - PMC
ここでは、African Mothers株式会社(以降AM社)とは一体どのような会社なのか、その設立背景や会社概要などをご紹介します。

AM社は、キャスタリア株式会社の100%子会社として2022年7月に設立されました。
創業者である代表取締役・川端氏(Yasuo Kawabata氏)のもと、アフリカにおける高い妊産婦死亡率の改善を推進するために、デジタル母子保健サービスを専門的に展開する会社として位置づけられています。
「With Africa For Africa」の現地協働理念を基に、現地パートナーとの協働が不可欠と捉え、アプリ設計や展開にも現地ニーズを反映する姿勢が特徴です。
例えば、IIJ、凸版印刷、豊田通商との連携により、コートジボワールでのデジタルプラットフォーム導入に向けた覚書を締結しています。
また、アプリの設計運用支援だけでなく、現地にマイクロデータセンターを構築しつつ、継続的ケアを支えるインフラ整備にも取り組んでいます。
まず最初に課題に挙げられるのは、アフリカ諸国の高い妊産婦/新生児死亡率です。
アフリカの一部諸国では、妊娠や出産に関する知識が妊婦に十分に届かず、医療機関での情報管理も体系的に行われていないため、妊産婦や新生児の死亡率が非常に高い状況です。
また、医療データの非体系的管理も今後の課題となっています。助産師が過去の診療データにアクセスできない、妊婦が自分の健診記録を知らない、という状況により、適切な指導や継続的フォローが困難となっている点を課題としています。
上記の2点をふまえて、AM社では、公的支援による調査・事業展開に目を向け、精力的に取り組んでいます。
例えば、経済産業省による「グローバルサウス補助事業」に、AM社の「統合型モバイル母子手帳アプリ調査事業」が採択されるなど、政府との連携による調査・展開支援を受けています。
今後はアプリそのものの展開だけでなく、母子保健サービス全体をデジタル化し、質の高いケアを広域に届ける構想が進行中です。
※参照URL:African Mothers
※参照URL:African Mothers, IIJ, TOPPAN, and Toyota Tsusho Sign Memorandum on Collaboration- Objective is to Use Digital Technology to Improve Maternal and Child Healthcare in Cote d'Ivoire
※参照URL:日本・アフリカ共創で拓く 健康と経済の未来
このアプリは、タンザニアで実際に採用されており、普及率は年々上がっています。ここでは、このアプリはどのようなアプリなのか、その内容やメリットをご紹介します。

AM社が採用しているアプリは、「“Taarifa za Mama”」というパーソナル・ヘルス・レコード(以後PHRアプリ)であり、スワヒリ語で「お母さんの記録」と言う意味です。
Castalia Co., Ltd.(日本)と AM社によるプロジェクトとして Tanzania(タンザニア)で展開し、Google Playや Apple App Store で提供されている無料のアプリです。
現地(タンザニア)で導入されており、現地の言語・文化・医療制度に合わせた仕様になっています。
ただし、一部機能にはアカウント登録が必要であり、スマホ・インターネットアクセスが前提となるため、遠隔地や通信インフラの整っていない場所では利用が難しい可能性が高いです。
アプリの基本機能は以下のようになっており、将来的には母子手帳と薬手帳が一体化し、デジタル化されアプリで携帯できることを目標にしています。
※参照URL:African Mothers
※参照URL:African Mothers, IIJ, TOPPAN, and Toyota Tsusho Sign Memorandum on Collaboration- Objective is to Use Digital Technology to Improve Maternal and Child Healthcare in Cote d'Ivoire
※参照URL:日本・アフリカ共創で拓く 健康と経済の未来
※参照URL:Taarifa za Mama on the App Store
※参照URL:Taarifa za Mama - Apps on Google Play
「Taarifa za Mama(ママの記録)」アプリを利用することで得られるメリットを、妊婦本人・医療従事者・社会/行政それぞれの立場から整理していきます。

それはなんと言っても健診記録の一元管理です。従来の紙の母子手帳や病院ごとの記録が分散せず、スマートフォン上でいつでも閲覧が可能になるため、転院・引っ越しをしてもどこでも同じ記録を管理することができるようになります。
また、健診予定日のリマインド通知も重要なメリットです。検診を忘れず受診できるため、早産や妊娠高血圧症、妊娠糖尿病などの異常を早期に発見でき、定期的なフォローアップが可能になりますので、母子の健康維持につながります。
さらに、妊娠・出産に関する情報提供も欠かせないメリットです。妊娠週数に応じた保健情報をアプリが自動的に配信してくれるため、正しい知識を得られることで、迷信や誤情報に頼らず安心して妊娠生活を送ることができるようになります。
総合的な観点から見ると、上記のようなメリットにより妊婦さんたちは安心感とエンパワーメントを実感できます。自分の健康情報を自分で管理できる「自己決定感」が育まれるとともに、家族や周囲に対して、記録を見せながら説明できるため、サポートを受けやすくなることも大きなメリットです。
まず、患者情報への即時アクセスです。過去の検診結果やリスク因子をデジタルで確認できるため、診察の質が向上します。それにより、紙での資料を探す手間が省け、短時間で効率的に診療できるのがメリットです。
また、高リスク妊婦の早期発見も可能になります。出血傾向や血圧異常、既往歴などを一元的に把握でき、早期介入がアプリにより可能になります。そのため、アフリカ諸国での母子死亡率の主要因である(出血・高血圧・感染症)を未然に防ぐサポートにもなります。
さらに、教育・啓発の補助ツールとしても使用できるのがメリットの1つです。妊娠に対して知識がない妊婦さんたちにアプリ画面を見せながら生活指導ができるため、理解度が高まります。特にアプリ内にあるピアサポート機能により、妊婦さん同士の支え合いや掲示板などでの情報交換も可能になりました。
社会的・行政的には、母子保健データの集約と活用が一番のメリットです。女性の妊娠記録が集まることにより、地域・国レベルでの母子保健統計が強化され、政府や国際機関が、妊産婦死亡率改善に向けた政策を立案する根拠データとなります。
また、母子死亡率低下への寄与にも貢献しています。このアプリにより、検診受診率の向上、リスク因子の早期発見により、妊産婦や新生児の死亡率を減少させる効果が期待されます。
実際に、SDGsでは「2030年3月までに妊産婦死亡率を10万出生あたり70以下にする」目標を立てており、このアプリの採用により、その数値は徐々に近づいてきています。
そのほか、持続可能な医療体制づくりにもメリットがあります。例えば、NGOや国際機関と連携しながらアプリを普及させることで、外部資金や寄付に頼らない仕組みが構築可能になるでしょう。
そのため、将来的には保険会社・製薬会社・通信事業者などとの協働による新しい母子保健エコシステムの基盤になると期待されています。
※参照URL:SDG Target 3.1 Maternal mortality
※参照URL:Trends in maternal mortality 2000 to 2023 - UNICEF DATA
※参照URL:Digital Health Technologies for Maternal and Child Health in Africa and Other Low- and Middle-Income Countries: Cross-disciplinary Scoping Review With Stakeholder Consultation
※参照URL:Mapping the Role of Digital Health Interventions to Enhance Effective Coverage of Antenatal Care: A Scoping Review
※参照URL:Impact of mobile health on maternal and child health service utilization and continuum of care in Northern Ghana | Scientific Reports
AM社はママの記録アプリだけでなく、日本企業とのプロジェクトもおこなっています。ここでは、どのようなプロジェクトを行っているのかお伝えします。

このプロジェクトは、2015年から塩野義製薬とワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)が協力して始めた、アフリカの母子健康改善を目標とする包括的プログラムです。
現在は第3期に入り、ケニアとガーナでの支援活動が行われています。現在の対象地域は、ケニア:ナクル県ギルギル準県、ガーナ:イースタン州アッパー・マニャ・クロボ郡であり、ケニア側で4施設、ガーナ側で6施設保有しています。
期間は2023年6月〜2026年5月までの3年間であり、保健施設の整備(産科棟の建設など)や医療従事者能力向上、地域住民への教育・啓発活動、水衛生環境(WASH:Water, Sanitation, Hygiene)の改善、子どもの下痢症の低減策、産前・産後健診受診や施設での出産率向上など、さまざまな取り組みがされています。
1期、2期の取り組みにより、子どもの下痢症の有病率が28% → 12%などの改善、発育障害や消耗症(栄養失調の進行)などの改善が確認されています。
※参照URL:アフリカでの医療アクセス向上 Mother to Mother SHIONOGI Project | GLOBAL HEALTH MAP
※参照URL:「Mother to Mother SHIONOGI Project」第三期事業における連携事業の契約締結について – タンザニアでの下痢症予防を目的としたアプリ開発 –| 塩野義製薬

コートジボワール共和国では経済的には発展しているものの、妊産婦および新生児死亡率が依然として高いことが課題とされています。
その背景には、主な原因として、妊娠・出産時の正しい知識が妊婦に十分に届いていないこと、また病院など医療機関で母子の情報が体系的に管理されていないことが挙げられています。
この協業はAM社をはじめとする4社による覚書(MoU)の締結を通じて、コートジボワールにおける母子健康保健(Maternal and Child Health: MCH)のデジタル化を推進するものです。
その内容は、まずデジタル母子手帳アプリケーションの開発と導入から始められました。アプリを採用することにより、助産師がスマートフォンから妊婦健診の記録を入力でき、共有できるようになります。
また、妊婦自身も自分の健診記録を自身の端末で閲覧できるだけでなく、ワクチン接種履歴などの医療データを含む、母子保健領域の医療情報を総合的に管理する仕組みを整備することも覚書には明記されています。
また、以下のように各企業がそれぞれの得意分野を活かして協業することも特徴的です。
・African Mothers株式会社:モバイルアプリ設計・開発・運用、データ収集・分析を担う。
・IIJ(インターネットイニシアティブ):マイクロデータセンターの提供・技術指導、運用面でのアドバイス。
・TOPPAN:医療データを蓄積・管理するシステムの設計・開発、運用およびデータの収集、分析を担当。
・豊田通商:プロジェクトの全体企画、ビジネスモデルの構築、コートジボワール政府や関係機関との調整・折衝を行う。
※参照URL:African Mothers, IIJ, TOPPAN, and Toyota Tsusho Sign Memorandum on Collaboration- Objective is to Use Digital Technology to Improve Maternal and Child Healthcare in Cote d'Ivoire
※参照URL:African Mothers、IIJ、TOPPAN、豊田通商が協業の覚書を締結
AM社は、キャスタリア株式会社の100%子会社として2022年7月にアフリカの母子保健課題を解決することを目的として設立されました。
主力プロダクトは、妊産婦向け・助産師向けのスマホアプリ「Taarifa Za Mama(ママの記録)」であり、妊産婦の健診履歴管理や衛生教育・保健指導をデジタルで支える仕組みを構築しています。
2023年12月には、塩野義製薬および京都大学との協働で、アプリに下痢症予防教育コンテンツを盛り込み、タンザニアでの普及・効果検証を図るプロジェクトがスタートしました(2023年11月〜2026年予定)。
さらに、2025年7月にはIIJ、TOPPAN、豊田通商との協業を発表し、コートジボワール共和国でデジタル母子手帳や医療データ管理プラットフォームを整備する計画を進めています。
これらの取り組みは、妊産婦・新生児の健康改善、医療アクセスの向上、衛生環境の改善といった分野を横断的に支援する構造をとっており、持続可能性を重視してビジネスモデルの確立を目指しています。
AA Health Dynamics株式会社は、アフリカ市場における進出支援・事業伴走・現地連携構築の専門家集団です。 実行可能なビジネスモデルの設計・検証・現地実装を一貫してご支援します。
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