
アフリカ連合(AU)が2019年に設立を決めた「アフリカ大陸医薬品庁(AMA: African Medicines Agency)」が、2026年に入り本格的な始動段階を迎えています。偽造医薬品の流通や、国ごとにばらばらな承認手続きが長年の課題とされてきたアフリカで、医薬品規制を大陸レベルで調和させようという試みです。ケニアの医薬品・毒物委員会(PPB)や南アフリカ保健製品規制庁(SAHPRA)といった各国規制当局との関係はどうなるのか、日本企業にとって市場参入のハードルは下がるのか。制度の現在地を整理します。
AMAはAUの専門機関として、加盟国や地域経済共同体(RECs)が医療製品を規制する能力を高め、質が高く安全で有効な医薬品へのアクセスを改善することを目的に設立されました。事務局はルワンダの首都キガリに置かれています。背景には、アフリカ市場で偽造・粗悪医薬品が流通しやすいこと、国ごとに承認手続きが異なるため製薬企業の市場参入コストが高くなっていることがあります。
AMA設立条約は2019年2月のAU首脳会議で採択されました。その後、2021年11月に条約発効に必要な15カ国の批准(カメルーンが15番目)を満たして発効し、2022年11月にはエチオピアで第1回締約国会議が開催され、事務局の設置国としてルワンダが決定されています。2023年10月時点で55加盟国のうち37カ国が条約に署名した状態でした。2024年にキガリで暫定事務局が業務を開始し、2025年6月にはデレセ・ミミ・ダルコ氏が初代事務局長に就任、2026年1月にはそれまで規制調和・安全監視機能を担ってきたアフリカ開発新パートナーシップ(AUDA-NEPAD)からAMAへの正式な機能移管が完了しました。制度づくりの段階から、実務を動かす段階に移りつつあるといえます。
注意が必要なのは、AMAが単一の大陸共通承認を発行する機関ではないという点です。臨床試験の許可や医薬品の販売承認は、引き続き各国の国家規制当局(NRA)が国内法に基づいて行う責任を持ちます。AMAが担うのは、複数国の専門家が共同で科学的評価を行い、その評価結果を各国が活用できるようにする「協調的評価」の仕組みづくりです。つまり、ある国で一度審査した内容を他国が参照することで重複審査の手間を減らす仕組みであり、「AMAの承認さえ得ればアフリカ全土で販売できる」わけではありません。ケニアのPPBや南アフリカのSAHPRAといった各国当局への申請は、当面は引き続き必要とみられます。
AMAの立ち上げから最初の5年間の運営には、米ドルで1億ドル規模の資金が必要とされています。また、世界保健機関(WHO)が定める規制成熟度レベル(ML)でみると、55のアフリカ加盟国のうち成熟度レベル3(ML3)に達しているのはごく一部の国にとどまり、大半の国は規制の実務能力そのものが発展途上にあります。政治的コミットメントのばらつきや言語の壁、法制度の違いも障害として指摘されており、AMAが実質的に機能するまでには相応の時間がかかるとみられます。一方で、医薬品市場の統合が進めば2030年代にはアフリカの医薬品市場規模が400億ドルを超えるとの試算もあり、中長期的なポテンシャルは大きいといえます。
AMAはまだ「制度を作る段階」から「制度を動かす段階」に移ったばかりであり、資金や規制能力の格差という課題を抱えています。過度な期待も過小評価もせず、各国当局の動向とAMAの進捗を並行して追うことが、アフリカの医薬品・医療機器市場に関わる日本企業にとって現実的な向き合い方といえるでしょう。アフリカの規制動向を踏まえた事業戦略の検討には、現地に拠点を持つAA Health Dynamicsのような専門家に相談することも一つの選択肢です。